【沖千】言の葉さがし
・「花と鬼」の続きのような…
続きからどうぞ。
「千鶴ちゃん」
「すいません、お茶出しなんて頼んじゃって」
盆を受けとりながら慌てて頭を下げる千鶴の頭を見下ろし、沖田は小さく息をついた。
「別に、暇だったからいいよ」
「あのっお礼と言っては何ですけど、お一つどうですか?」
そう言って差し出されたのは一口大の饅頭だった。
皿の上に綺麗に積まれた饅頭を見て、つい心の中の疑問が口をついて出てしまう。
「どうしたの、これ」
「島田さんからお裾分けして頂いたんです」
「…そう、」
にこにこと笑顔で応える千鶴の小さな頭を、沖田はじっと見下ろした。
その視線を受けた千鶴がきょとんと首をかしげる。
「?沖田さん?どうか…」
「何でもないよ。それよりさ、これ持って一緒に休憩しない?」
「え、でも、」
「僕、今日は夜番だからさ。今暇なんだよね。君も今日は外に行かないんでしょ?」
「はい、ですが」
「あぁ、その洗い物のこと?大丈夫だって。気付いた奴がやるでしょ」
これでも渋る千鶴にため息をつき、沖田はまた言葉を重ねる。
「君はさぁ、新撰組の隊士でも何でもないんだからさ」
しゅんと俯いた頭に、しまったと気付いた時にはもう遅く。
「はい……」
一体何に対しての肯定なんだか分からない返事が返され、沖田はあーあと心の中で自分に毒づきながら千鶴の腕を引っ張った。
どうしてこうも、伝わらないんだろう。
「ほら、行くよ」
自分の言葉が足りないせいだというのはよく分かっている。
隊士じゃないんだから。そんな事までしなくていい。もっと手を抜いていい。
そんなに手を真っ赤にしてどうするの。
所々あかぎれのある指先は、冷たい水がとてもよく沁みるだろう。そう思われた。
休んでほしい。そう伝えたかっただけだった。
一人にすると何かしら仕事を見つけてしまう彼女を座らせるにはどうしたらいいか。
そうして出たのが先の言葉だというのに、それが彼女には伝わらないのだろうか。
はぁとため息をつきながら、彼はふと宙を見上げる。
どう言えば彼女は察してくれるだろうか。
どうして彼女は僕の気持を推し量ってはくれないんだろうか。
「素直になる」なんてことは、天の邪鬼な彼には微塵も思いつきもしないのだった。
言の葉さがし
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